「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」ネタバレあらすじと感想結末(歌田年)

 

作品情報

歌田年の「第18回 このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。

紙鑑定士の渡部は事務所に訪ねてきた女性から浮気調査を依頼されます。「紙鑑定」を「神探偵」と間違えたのだと気付くが話を聞いているうちに小遣い稼ぎはなれそうだと思い引き受け解決してあげると女性の知り合いから失踪した妹を捜して欲しいとジオラマの家を持ってやってきました。

浮気調査の時に出会ったベテランプロモデラーの土生井と協力してジオラマのプラモデルを参考にして調査していくが大量殺人計画に気付いてしまう。

 

ネタバレあらすじ

事務所をかまえる紙鑑定士の渡部圭は美容師の米良杏璃が訪ねてきたので案内するが「彼氏ヒロの浮気を調査して欲しい」と頼まれます。

「紙鑑定」を「神探偵」と間違えたのだと分かるが仕事内容を伝えると彼女は興味は持ちます。

一応話だけ聞いてみると今まで興味がなかったプラモデルを作り始めたのと自分がプレゼントした財布を落としたと言っていたのにごみ箱で見付けたからと言うのが理由であり、彼の仕事が男ばかりの塗装工なので杏璃はゲイではないかと疑っていました。

ジオラマの戦車のプラモデルの写真を見て渡部は知り合いの出版社の刊行物で模型専門誌があった事を思いだし何かの役に立てるかも知れない言って小遣い稼ぎの軽い気持ちで渡部は引き受けます。

ヒロの財布の中に「R」と手書きされた銘柄がマーメイドの切れ端が入っていたので一応ピンセットで掴み保管します。

 

知り合いを通し模型雑誌専門誌なので活躍していた50代のベテランプロモデラーの土生井昇を紹介してもらい訪ねると認知症の母親と一緒に暮らしていました。

写真を見せると2010年に制式採用された自衛隊の戦車とイスラエル国防軍の戦車だとすぐに言い切りました。男性同士のフィギュアだったので杏璃はゲイと疑っていたが土生井が言うには単にキットの付属品を使っただけであり女性モデラーもいると言います。

しかし現実にこの二つの戦車が一緒にいるのはありえないためモデラーではないと思われるがイスラエルは女性でも兵役に就くのでイスラエル人女性からのプレゼントならあり得ると推理しました。

渡部は外国人パブにイスラエル人の女性がいるのではないかと思いヒロが通っている職場を杏璃から聞いて家との往復を考えると池袋が怪しいと目を付けます。

イスラエル人で検索してから店に行くとまさにビンゴ!!ルーマニア人の女性と話しているときにイスラエル人女性と一緒にヒロが店にやってきました。名前を聞くとラケルだと分かり財布に入っていた「R」のイニシャルとピタリ当てはまりました。

証拠の写真を撮って杏璃に送るが彼女は逆ギレされて殴られ鼻を骨折していました。ヒロには出て行ってもらったが治療費があるので10万だった約束が2万になってしまい渡部はがっかりします。

 

第2の依頼

杏璃の知り合いで田中商事の秘書・曲野晴子が家のジオラマが入った段ボールを抱え訪ねてきます。

晴子の妹・英令奈が行方不明らしく「S to E」と書かれている事で「S」からの贈り物だと晴子は思っていました。

姉妹は14歳離れていて父親が違い、英令奈はパニック障害と鬱病を抱え集団セラピーにも参加していたことを知ります。

またゴミ屋敷を訪ねるのは気持ち的に抵抗があったが土生井の力が必要だと思い渡部は訪ねます。

ジオラマを見た土生井は市販のキットを組んだものではなくフルスクラッチ(完全自作した模型)だと言います。またジオラマは情景模型のことを指すがフィギュアもなく家が主題になっているのでミニチュアハウスだと言いました。

屋根を外すと確かに間取りが出来ていたが三体の兵隊人形にはイニシャルがあり部屋中に銃器がたくさんあったので嫌な予感がします。2体は銃を手にして部屋の中にも銃器がばらまかれていたが一体「E」の部屋には何もなかったので監禁されているように見えなくもありませんでした。

 

晴子に屋根が外れる事、監禁されているように見えるが心当たりはないかと聞くと他の二体のKとTは母さんと父さんだと言いました。文字に特徴があって英令奈が書いたものだと断言し、晴子は義父から性的虐待を受け実家を飛び出したが3年後に16歳になった妹も被害を受け家を出たのだと説明してくれました。

ミニチュアハウスは熊本の実家だとわかり最近になって義父が英令奈を探しに上京してきたので晴子は今の所沢に引っ越したばかりでした。

樹木が実物を使っていた事で、知り合いを通して植物学者に鑑定を依頼すると河津桜だと分かります。関係者しか入れない敷地や使い易い樹木がある神社などは後回しにして、川沿いや市街地をグーグルマップで確認すると場所は絞られ、前に住んでいた足立区に近い場所を捜すとジオラマの白い家を発見しました。

よし!と思いきや行ってみると白い家はなく駐車場になっていました。しかしジオラマの台みたいなものを持つ女性を見て後を付けてみると「ミニチュアハウス制作教室」にたどり着きました。

しかも教室を開く葉田一洋は作者として有名だと土生井から知らされます。

生徒が出ていったあとに訪ねて聞くと蒲沢新次の作品だと言いました。最近来なくなったことを知り父親が亡くなったことを知るがモデルとしていた白い家の加藤さんも亡くなっていたのでちょっと不気味に感じます。

新次の「S」に違いないと確信するが彼は解離性健忘の病気だと知ります。また葉田が心理セラピーの会で箱庭療法というセラピーをボランティアでやっていおる時に英令奈と出会い彼女も生徒として通っていたが来なくなったと知ります。

 

殺人事件

蒲沢が姿を見せなくなってから1度ジオラマを送ってきたことを知り見せて貰うとタイトル「612」と書かれ、表札が「黄橋」となっている山小屋のようなものだったが中を調べると床下に一体寝転んだ状態で置かれていました。

黄橋とは厚木にある橋であり、グーグルマップとストリートビューで見ていると、土生井から「何か埋まってるようだ」とメールがあります。たまたまホームセンターから出てくる自分の好きな車、グリーンのロードスターを発見し追って見ていたが黄橋の路肩にも停車しており拡大するとトランクからスコップが飛び出ていたのです。

渡部が現地に行ってみると黄橋は車が通れる幅ぐらいで現地の人しか通らないような場所でした。ホームセンターで買ったスコップを持ち、予め山小屋のテラスは橋を表しているのではないかと推測していた事もあり橋の右寄りを1mほど掘ると白骨した遺体を見付けてしまいます。

通報した渡部は自分も容疑者として疑われるのだと知り2時間の聴取を受けて解放されました。

 

遺体は英令奈かと思われたが成人男性だと分かります。現に晴子の方に警察から連絡はありませんでした。

渡部は晴子を紹介するため土生井を訪ねると母親が誤嚥性肺炎で亡くなったと知りお線香を上げさせてもらうが事件について話しているときに急に土生井が吐血し救急車を呼びます。

肝硬変だと思われる土生井はそのまま入院する事になります。

後日、発見された遺体は行方不明になっていた中原泰三だとニュースで流れます。土生井のお見舞いに行くと晴子が来ていたので中原を知っているか聞くと義父だと知ります。警察に連絡しようとするが妹が犯人だと疑われると晴子が言うので納得するが蒲沢からまた届いたと葉田から知らせを受けすぐに向かいます。

「311」のタイトルは船のジオラマだったが半分骨組みで建物に乗っかっていました。東日本大震災で見た事がある風景だが・・・・。渡部は画像を送ると土生井に付き添っている晴子が変わりに返信してくれます。

マストにかかっているロープが髪の毛か確認して欲しいと言われ確かにそのようだと思うが尾行していた刑事がやってきます。しかも、さらに蒲沢から墜落した寸感のような飛行機の模型が送られてきました。

タイトルにある数字は日付だとするとこれから9.18に飛行機が墜落する事を予言しているのか・・。

漁船の船名が「第一暁海丸」となっていたので検索をかけると船の名前にはないが厚木から近い平塚の養護施設が「第二暁海苑」だと分かります。

渡部はすぐに向かうが外から南京錠がかけられており近所の人に話を聞くとバスに乗って今朝引っ越したと知らされます。写真を見せる英令奈がいた事が分かりグリーンの車が停まっていた事も証言が取れました。

その時、「犯人は苑長の小野寺です」と手紙が届いていた事から刑事と出くわします。渡部はその手紙を見てスピカレイドボンドだと分かり便箋の頭が切り取られていたことでロゴを隠すためだと推理しレターセットを卸しているのはKAPPAホテルだけだと教えます。

すると興信所に勤務していた男性の死体が発見されました。

 

第二暁海苑の専用ごみ箱に「第一暁海苑完成予想模型」は発見し広場の真ん中に窪みがあるのを見て押し上げると小さな人形が大量に押し込められていました。

飛行機のジオラマにある「A」とは暁海苑の事だと推測できるが飛行機を落とせるとは思えない、今までの作品も見たものを表しているわけではないので逆さにして見ると何かに潜っているように見え飛行機が「エアバスA320」だったのでバスではないかと思います。

そして先ほど子供達を乗せて出て行ったのもバスだと思いだし、また「918」だと思っていた数字も逆さにすると「816」となり本日の日付だと気付きます。

漁船のジオラマは東日本大震災をイメージさせるものだったので「第一暁海苑」が津波で被害に遭ったのではないかと思います。「612」がタイトルだった黄橋を調べると梅雨時の豪雨で川が増水し街が被害に遭っていたが黄橋だけが流されなかったので人柱のおかげだと思ったのではないだろうか。

渡部はとにかく東方方面に向かおうとしたが点検のため新幹線がストップしており仕方なく元恋人で老舗の商家である真理子に助けを求めるとランボルギーニで現われました。

父親が過労死してしまい渡部は復讐するために会社に入りました。真理子と結婚して独立し遺産相続したら乗っ取ってやろうとも考えたが彼女に本気になってしまったので会社を去っていたのです。真理子がそのように疑っており図星だったために笑って誤魔化します。

 

結末

車を走らせていると土生井から電話があり「犯人は小野寺だと告発している蒲沢は同一人物じゃないか」と言われます。

解離性健忘は工作を忘れるとかの症状ではないため二重人格ではないかと思ったのです。児童養護施設を経営していた小野寺が津波に遭ったあとに自殺した記事を発見したが他殺の線でも捜査を進めている事を知り、小野寺が殺したのではないかと疑いました。

小野寺の反抗に気付いた蒲沢は自分を止めて欲しくてジオラマを作っていた。出会った英令奈が義父に虐待されていたので小野寺が殺し、義父が雇っていた興信所の男性は依頼主が殺されたので接触しようとして殺されたのではないだろうか。

父親を超えようと思い児童養護施設を経営したが本当は津波で流された場所で経営したかったのではないか、津波が怖かったので平塚で経営していたが黄橋の事件があり人柱をすれば流されないのだと思ってこれからバスで子供たちを埋めようとしているのだと考えればすべてが繋がります。

蒲沢という名前は地名じゃないかと気付き知り合いの漫画家がペンネームに「ノ」を使っていたので「蒲ノ沢」で検索すると南三陸町に志津川蒲ノ沢という地名があるのを発見しました。

スピードをあげて飛ばすと既に実行されている事に気付き渡部は空気穴を作ろうと手で掘っているとショベルカーを運転する真理子がやってきました。

彼女に任せているとそこに「止めろ」と小野寺と英令奈がやってきます。英令奈は何も知らないようで父親に見付からないように皆で逃げていると思っていました。

「そいつは蒲沢ではなく小野寺で人殺しだ」

小野寺は英令奈を人質にするが、いつも得意で持ち歩いていたトランプを手裏剣のように投げ付けると小野寺の目に命中し彼女に伏せるよう指示すると真理子が操縦するシャベルが横から飛んできて小野寺を吹き飛ばしました。

空気穴を確保し警察に連絡してなんとか子供達は救われたが、新建設予定地を庭全体を掘り起こすと大量の人骨が発見され50年以上前のものだと判明したため小野寺の父親が異常者だったのです。

 

感想

模型から探っていくのは新感覚で最初は面白かったのですが真理子が現われてから急に空気感というかキャラが変わってしまったように感じられた。最後の対決はなんですか急に、漫画のようで笑ってしまった。

紙鑑定士が主人公なのに知識が事件とまったく関係ない(笑)

そしてプロモデラーの土生井はジオラマに詳しいのは当然なんですが、なんであんなに推理が的確に命中していくのか。事件解決ならどちらかと言えば土生井の方が主役であり渡部は指示通り動いているだけのように思う。

題名にあるように「紙鑑定士」ならではのノウハウを生かした事件解決を望んでいたので正直がっかりしたかな。

 

小説/BOOK
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