原作「黙秘犯」ネタバレ感想を結末まで・背後には2つの事件が複雑に絡み合う

作品情報

乱歩賞作家・翔田寛による警察ミステリー

著者・翔田 寛/1958年東京都生まれ。2000年「影踏み鬼」で第22回小説推理新人賞を受賞してデビュー。01年「奈落闇恋乃道行」で第54回日本推理作家協会賞(短編部門)候補。08年「誘拐児」で第54回江戸川乱歩賞受賞する。14年「墓石の呼ぶ声」で第67回日本推理作家協会賞(短編部門)候補。17年「真犯人」で第19回大藪春彦賞候補になり18年にWOWOWドラマ化。他の著書に「人さらい」、「冤罪犯」など。

夜の住宅街で大学生が撲殺される事件が発生。

凶器に残った指紋や傷害事件の前歴、目撃情報により倉田が容疑者として逮捕される。

証拠としては十分であったが船橋署の刑事らは殺人とは縁遠い倉田の愚直で禁欲的な素顔に違和感を抱き何か隠していると気付く。

捜査に乗り出した刑事らは日時も場所も異なる海水浴場で起きた不審死と連続婦女暴行が複雑に絡み合っていることを突き止める。

すると捜査本部に圧力がかかった。

 

 

ネタバレあらすじ「黙秘犯」

 

第1章/夜道の凶行

千葉県館山にある民宿「夕凪館」。両親が経営する民宿を手伝っている24歳の友部杏子は教師の桜井修一と結婚を控えているが心の何処かに迷いがあります。

出会いは4年前に事故と処理され亡くなった弟・雄二の忘れものを学校に届けに行ったのが出会いでした。

桜井家は大地主で国会議員の親戚でもあったので修一の母親や親戚の一部が結婚を快く思っていませんでした。しかし正直に修一が話してくれた事や民宿の財政状態が厳しく援助したいといってくれた事で決意しました。

それは弟が亡くなり両親にとって生き甲斐とも言える旅館だけは潰すわけにはいかないと思っていたからです。しかし結婚を報告したときの弟の表情がおかしかったので杏子は不安を抱えています。

船橋で男性が撲殺される事件発生。

被害者は大学生の西岡卓也。凶器のワインボトルに残されていた指紋が前歴者で執行猶予中の倉田と一致したので船橋署の刑事は現住所を調べると「夕凪館」であり被害者の実家と同じ地域でした。

通報者は逃げる男の横顔を目撃していたが「あの晩・・」という女性の声を耳にしていました。

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第2章/被害者と加害者の顔

被害者の西岡は親が金持ちでお調子者、代議士の息子である清水と仲良かったことが分かります。

清水を訪ね西岡が亡くなった事を伝えるといきなり「事故ですか、殺されたんですか」と聞かれたので何か妙だと刑事はひっかかります。

容疑者の倉田は小学校の時に両親を事故で亡くし親戚に引き取られ中学卒業と同時に板前に修業に入りました。そこで口論となり主人を包丁で刺して裁判で一方的な暴力だと認めていました。それなのに保護司の鈴木らに話を聞くと誰もが「善良な人間。腰が低くて礼儀正しく謙虚な人間」と言います。

それでも倉田の当時の服装や足取りから犯人で間違いないと思ったが海水浴場で溺死した夕凪館の経営者・友部喜久治の息子・雄二と揉めていたのを目撃していた人がいました。誰もが「そんな人じゃない」と否定し、捜査する上で倉田が起こした傷害事件と雄二の不審死を知り刑事たちは気になってしまいます。

傷害事件に咄嗟の犯行の割には現場から凶器が置かれた場所がかなり離れている点や遅い時間なのに現場が主人の寝室で目撃者が仲居の上条麗子だという不審な点が見られました。

また雄二の方は体中に打撲痕などあったが肺に海水と砂が混入していて争った目撃情報がなかった事から事故死と処理されました。倉田と揉めていたという目撃情報があった次の日に喫茶店のバイトバイトを辞めており更に船橋で起きた連続婦女暴行事件の容疑者だった事が判明します。

被害者からは睡眠導入剤が検出されており共通しているのは雄二がバイトする喫茶店に寄っていた事から疑われていました。雄二が殺害された可能性があるという理由で犯人のDNAと鑑定したところ雄二のDNAとは一致しませんでした。しかし雄二が亡くなってから連続事件が止まった事、そして被害者の話から犯人が二人である事から片割れの可能性が高まります。

雄二は夕凪館の息子で倉田はそこで住み込みで働き、被害者の西岡と雄二はクラスメイトである事が分かり繋がりが出てきました。

 

第3章/意外な事実

倉田が「姉が結婚していなくなるのだから夕凪館の長男としてしっかりしろ」と雄二に説教していた事が分かります。

刑事たちは杏子の結婚相手が桜井修一だと知り驚きます。雄二と被害者の西岡、そして西岡の親友の清水3人の高校の時の担任だったからです。

雄二が不審死を遂げた日に駅前でウロウロしていたと知り映像を見せてもらうと雄二を監視している清水を発見します。そして表向きは優等生だった清水と西岡だったが雄二を含めた貧乏人などは虐めを受けており担任だった桜井は見て見ぬフリをしていた事が分かります。

桜井の母親と清水の母親は姉妹であり、調べれば調べるほど何か裏があるように思えてきました。清水の聞き込みを開始しても父親が地元出身の代議士である事から警戒し多くを語ろうとしないのです。

雄二がウロウロしているのは交番近くであり、婦女暴行事件について何か知っていて清水が監視していたとすると・・・。一方、傷害事件を目撃した仲居の麗子を訪ねると「厨房にいて争う声が聞こえたから駆け付けた」と言いました。倉田は口論となってから出刃包丁を取りに行ったので言っている事が本当なら厨房に向かう彼とすれ違っているはずなので嘘だと分かります。

事件当日に倉田の目撃情報が捜査員が入り米良警部補は逮捕状を取るのはいくつかの事件を解明してからだと思うが千葉県トップの県警本部長から「容疑者を早急に逮捕しろ」と連絡がはいります。

 

第4章/逮捕

倉田は執行猶予中なので殺人など犯せばどうなるかぐらい分かっているはずなのに凶器をそのまま置いていくだろうか。また2年前の傷害事件も不可解であり誰に聞いても生真面目で謙虚な人だと言います。

何より県警トップの本部長が介入するのも不自然です。代議士の息子・清水を調べてからとゆう事もあり誰もが頭をよぎります。

夕凪館に行き逮捕状を読み上げると倉田は抵抗はせず「お世話になりました」と主人に深々頭を下げました。「幸せになってください」と言われた杏子は信じられない様子であり「彼は絶対に無実です」と言い張りました。

検察庁に送検されるまで48時間しかないので米良は密かに事件を探るよう捜査員に命じます。

杏子がウェディングドレスの仮縫いのために洋装店に行ったのが事件の会った日だったので「西岡を知っていますか」と聞くと知らないと即答したが表情は強張っていました。

また夕凪館で働いている節子は叫び声が聞こえて出て行ったところ杏子が二人組に襲われているのを目撃していました。怖くなって棒立ちになってしまったがそこに出刃包丁を持った倉田が駆け付け二人を追い払ってくれたので駆け寄りました。

杏子は桜井の親戚が結婚に反対しているので被害届なんて出したら破談になると思い黙っているよう二人にお願いしていました。

杏子は弟に呼ばれて喫茶店に行き帰るところ襲われたと知りうっすらと繋がってきます。

黙秘を続ける倉田。刑事は「雄二の胸倉を掴んで説教したそうだが一介の板前が言う事じゃない、他の理由からだったんじゃないか」と聞くが完黙されます。

犯人の一人が西岡だとすると、通報者が耳にしていた「あの晩・・・」というのは杏子かもしれない。杏子に想いを寄せる倉田は保護司の鈴木に会いに行った帰り目撃して現場に居合わせた可能性も出てきます。

倉田の過去を調べると妹が自殺していた事が分かります。中学生の時に仲良かった人に話を伺うと引き取った夫婦は倉田の両親の遺産を使い込み夫婦の息子から妹はいたずらされて一人で悩んで飛び降りたことが分かります。

それまで倉田はよく笑う人だったが妹が残した遺書を読んでから助けられなかったと自分を責め人が変わってしまったと分かります。

「今でも自分を許せず、自分を罰しているのだと思います。あいつが罪を犯すはずない」

また清水を調べていた捜査員から監視カメラの映像などすべて消えていると報告があります。逆に言えば清水が事件に関わっているという事なので船橋署の刑事らは絶対に逃がさないと団結します。

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第5章/唯一の証拠

倉田は「西岡と清水に脅されてお前も事件に関わっているんじゃないか」と問い詰めたところ次の日に雄二はバイトを辞め出頭しようとして交番の前でウロウロしたのち、その晩に不審死を遂げてしまった。そしてその様子を探る清水の姿が映っていると考えると婦女暴行事件も雄二の不審死も清水の可能性が出てくる。

「雄二の不審死が倉田に西岡殺害の罪を被る決意をさせてしまった動機」と賭けに出て、その裏で関わっているであろう清水を逮捕した。

おそらく逮捕されるのも想定内なのか、清水は余裕綽々の態度を見せ警察内部の情報まで知っていました。

証拠となり得るものはすべて消去し弁護士と相当練習してきたのだろうと予想出来る。しかも県警トップどころか警察庁次長から圧力がかかります。

所轄は西岡の事件から話しだし倉田が罪を被っている可能性を話してからその裏に隠されている「連続婦女暴行事件」と「雄二の不審死」の話しに持っていきます。

それでも証拠はあるはずないと清水は見下した態度・・・しかし警察は証拠を掴んでいた。

あの日、雄二はプラモデルを購入し二人に呼び出されるまで部屋で赤いプラカラーを塗っていました。しかも2種類の色合いの違う赤いプラカラーを混ぜて独自に色を作り上げていたのです。そして清水が浜辺で座っていたという目撃情報があった事でいつも使っているデイバックを調べたところ作った赤いプラカラー付きの雄二の指紋が検出されたのです。

つまり部屋を出てから不審死を遂げるまでの間に会っていた確実な証拠なのです。そして被害者たちに声を聞かせて全員が認めれば殺害動機も浮かび上がってくるのだと言い放ちます。

「おまえは三件の強制性交等罪と一件の未遂、そして傷害罪並びに殺人の罪で送検される。どれだけ重い量刑になるが弁護士にでも訊いてみろ」

 

結末/黙秘犯

倉田が自分は幸せになってはいけないと自分を責めていることから2年前の事件も無実の可能性が高い。問い詰めると主人からおかされそうになった麗子が自分を守るために出刃包丁で刺したことが分かります。

悲鳴を聞いて駆け付けた倉田が包丁を手にしたところ帰ってきた女将さんが見て通報したのです。

主人は妻に知られたくない事、そして罪の露見を恐れ倉田に頼んでいたのです。また麗子の家に厳しい姑がいる事を知っていた倉田は同情して罪を被っていたのです。

倉田のこれまでの人生、倉田が杏子を庇っている理由、そして弟を殺害したのが西岡と清水だと聞かされた杏子は「西岡を殺したのは私です」と自白しました。

酔っ払った西岡に話しかけられたときに声で杏子は「あの晩の・・・」と気付きました。西岡は露見するのをおそれ襲ったがワインボトルで返り討ちに遭ったのです。杏子は気付いたら現場から遠くまで逃げていたが、それを目撃した倉田がワインボトルに触れ罪を被ったのです。

それは自分が問い詰めたせいで弟が自ら命を絶ってしまったと思っていたから、また前科者の自分を雇うよう何より率先してくれたのが杏子であり恩があったからです。

倉田も杏子も不起訴処分となり彼女は涙を流し倉田に謝罪しました。

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感想/黙秘犯

内容も面白かったし読みやすかった。

ただ警察ミステリーとゆう事で捜査段階と会議で報告する場面があるので同じ話を二回読んでいる気になってしまう。頭の中で話しは繋がっているので「会議の場面はいらない」とどうしても思ってしまうのですがそれは仕方ないですね^^;

親も親ですが犯人はしょうもない奴ですね。

いつも思うのですが証拠隠滅した刑事は罪にならないのでしょうか。代議士のために動いた警察のお偉いさんも・・・。せっかく尊敬できる立場にいらっしゃるのですから弱者をしっかり守ってほしいものです。所轄の刑事らには拍手です。

だけど倉田みたいな人は実際にいるんですかね。もうちょっと納得いく理由が欲しかったかな。

 

小説/BOOK
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