「罪と祈り」ネタバレあらすじと感想/時代への復讐のはずだった(貫井徳郎)

 

作品情報

「乱反射」や「灰色の虹」などを手掛けた貫井徳郎の絆と葛藤を描いた衝撃の長編ミステリー。

真面目で正義感強い元警察官の辰司が隅田川で浮いているのが発見される。殴られた痕跡がある事から事故ではなく殺人だと分かり、息子の亮輔と幼馴染みである刑事の賢剛はそれぞれ真相を探るが賢剛の父親である智士も自ら命を絶っていた過去があった。

「辰司と智士のバブル期」と「亮輔と賢剛の現在」が行き来するストーリー、事件の真相に迫ったときバブル期に起きた最も切なく悲しい未解決誘拐事件がみえてくる、罪の大きさを知りながら息子に遺したものとは。

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ネタバレあらすじ/罪と祈り

 

フリーターの濱中亮輔は元警察官の父親・辰司が溺死体で発見されたと連絡を受けます。管轄署には警察官となった幼馴染みの芦原賢剛がいて側頭部に殴られた痕があったから隅田川に橋から転落した事故ではなく殺人だと知らされます。隅田公園には血痕があり柵からは指紋が検出されました。

辰司は恨みを買うような人ではないが現に殺されている、亮輔は父親に興味がなかったので聴取に答えられることはなかったが一緒に住んでいて何か隠し事があるように感じていました。

賢剛の父親・智士は辰司と親友同士だったが自ら命を絶っていました。4歳で父親を亡くした賢剛にとって辰司は父親代わりにような存在であり警察官になったのも彼の影響があったからです。

捜査本部設営され賢剛は捜査一課の岸野刑事とタッグを組みます。亮輔は父親と親しかった人から話を聞き、智士が自殺した理由は謎だがその一件があってから辰司が口数が減ったと分かり何か関係があるのではないかと思います。

 

遺品に智士が亡くなった年代が書かれたファイルが見付かり確認すると未解決誘拐事件とうつ病になった女性が育児放棄をして子供を死なせてしまった事件の新聞の切り抜きがありました。母親に聞くと育児放棄をした女性は小室翔が一途にずっと思っていた人だと聞かされます。荒々しい性格で地元では有名だったのでためらったが翔は智士を慕っていたと知り勇気を持って訪ねるが追い返されてしまいます。

翔を訪ねてから亮輔に「かぎ回るな」と警告文が届いたと知った賢剛は岸野刑事と共に訪ねると驚いていたので直感で違うと分かるが岸野は積まれていた本が誘拐事件を含めバブル期のものばかりだった事に気付きます。

父親の事を訪ねると強くて立派な人だったと言いました。強い人が自ら命を絶つとは思えず問い詰めると「墓場まで持っていく、お前は知らない方がいい」と口を滑らしました。

辰司が殺された事件と智士の自殺は無関係だから犯人逮捕に専念しろと翔が言い切った事で逆にすべては繋がっているのだと分かるが先を聞く勇気がないので引き下がることにしました。

「俺は智士のように潔く死にたい」と言っていた事を亮輔は思いだします。智士は公園の柵にロープを結びつけ川の方に身を投げて首を吊っていた。もしかして立ち会っていたのか・・・。

 

辰司と智士/バブル期

智士は地元である西浅草で居酒屋チェーンに就職するが板長からは怒鳴られ腕前は後輩に抜かれていました。嫌がらせを受けていたが同級生の弟である小室翔が身方でいてくれているのと家族のためを考えたら耐える事は出来ていました。

また交番警察官の辰司も地元ではあるが担当地域が違うため最近多発している玄関先にゴミをおかれる嫌がらせには積極的に協力出来ないでいました。

再開発を見当している東芳不動産が地上げのために雇ったヤクザの仕業だと地元住民は分かっていたが証拠がありませんでした。現に老女が家に閉じこもるようになって亡くなりストレスから流産してしまった人もいました。

土地を売って大金を手に入れた小泉和俊が会社を辞めてパチンコをするようになり愛人をつくって家に帰るのも疎かになってしまいます。妻の比奈子はうつ病になって育児放棄から赤ちゃんを死なせてしまいました。長い期間拘留されていたが不起訴になり辰司や智士は安堵するが釈放された彼女はすぐに自殺してしまい比奈子の事を小さい頃から20年間想い続けていた翔は怒りが込み上げます。

 

和俊を殺しても何の解決もしないと説得する智士は、金で警察が動かない時代に不満を抱えていたためこれ以上町が変わり犠牲者が増えるのは我慢ならないと思うようになります。

「土地を買い上げた東芳不動産が悪い・課長クラスの子供を誘拐して身代金を要求する」

智士は翔、そして幼馴染みである保育士の生島彩織に「計画」を伝えました。すると彩織は祖父の道之助も仲間に加えれば拠点が出来ると言いました。道之助は可愛がっている彩織がいる事で「時代に復讐」ではなく「面白そう」という理由で仲間に加わり「二人を誘拐して身代金を2億にすればいい」と言いました。

正義が存在する時代だったらすぐに止めていたであろう辰司も「もう後には引けない」と言われ妹のように大事にしている彩織や翔を罪人にしたくないので決心しました。なにより家族を守るために必ず成功しなければならない。

天皇の葬礼の日には警察は動けないから絶好の機会だ!!

 

誘拐事件

道之助が用意した車で辰司と彩織は通学路に向かい子供の扱いに慣れている彩織が声をかけると素直に二人の子供は従い車に乗ってきました。

睡眠薬を混入させたジュースを飲ませ子供が眠りに付くと「子供を預かっている。2億を用意するよう旦那さん達が働く会社に準備させてください、子供1人1億だ」と身代金を要求する電話をかけます。

目を覚ました子供達は知らない場所にいたので戸惑いを見せたが彩織が面倒を見ると笑顔を見せご飯もしっかり食べました。それを見て辰司は帰宅し仕事を終えた智士と翔も順調だと知り帰宅します。

翌日、翔と道之助はそれぞれ違う場所から電話し「1億を持って家を出ろ」と指示し、彩織の家で待機していた智士は道之助から電話を受け、入れ替るために出発します。

智士と翔は電話して場所を転々とさせたあと電車に乗って金が入ったバッグを窓から捨てるように指示しました。

 

バッグを拾い上げた智士は翔も成功しているだろうと確信に近いものを感じていたが彩織から子供が息をしていないと電話があり、無傷で返すのが計画だったために「運命だ」と受け止めすぐに病院に連れて行くよう伝えるが道之助が反対します。

智士は電話を切って救急車を呼ぼうとしたが家族や辰司たちの事を思い受話器を置きました。

彩織の家に到着するとグラタンを食べさせたら具合が悪くなったと知りアレルギーだと分かります。金を手にした翔も戻ってきてくるが子供が息していない姿を見て愕然とします。そんななか道之助だけは金を確認していました。

沿道警備に立っていた辰司は計画の成功を確信していました。交番に戻ると人質が解放されたと情報が入るが子供が1人だと聞いて不安が押し寄せます。

子供の死体が発見されたと知った辰司は仕事を終えるとすぐに彩織の家に行きます。報道協定が解除されたことでテレビのニュースはどこも誘拐事件のことでもちきりでした。

子供の命を奪ってしまった金を受け取る勇気がない事を告げると道之助は「俺が預かってやる」と平然と言いました。

 

智士から話がしたいと声をかけられた辰司は隅田公園に向かいながら同じ考えなのだと気付きます。

警察官でありながら計画した辰司、誘拐を思い付いた智士は互いに責任を背負うつもりでした。しかし警察官の自殺は監察の対象となり徹底的に調べられるのでそれはダメだと智士は言います。そして残された妻子を頼めるのも親友の辰司しかいないと・・・辰司は何も言い返せなくなってしまい涙を流します。

「残る方の辛さを思うと申し訳ない」と言われた辰司は「それが罪なら償い続ける」と告げます。

そして智士は川に向かって躊躇せずに飛び降りました。

 

結末/罪と祈り

辰司が喫茶店「チュリーブロッサム」の店員と一緒にいた証言が取れ、行きつけの店であり店主のの桜夏恋を昔からよく知っているので賢剛は衝撃を受けます。

亮輔は推測がピタリとはまり父親は犯罪者だったのだと嘆きます。「チェリーブロッサム」で賢剛の恋人である英玲奈と妹の優美が飲んでいると知り一人でいたくなかったので向かいます。

亮輔は父親の知り合いに話を聞いて帰るときに白髪の爺さんに「関わるなといきなり言われたから警告文送った人だと思う」と話すと「奥さんと孫に先立たれたひとり身の江藤さんじゃないか」と言われます。

誘拐された子供が女性がいたと証言していたことで孫が女性だと知り二人とも誘拐犯の仲間ではないかと疑います。

 

賢剛は防犯カメラに桜が映っているのを確認し、家宅捜査で辰司の血痕が付着した服が見付かったので逮捕します。

桜は彩織を姉のように慕っていました。彩織は誰かの子を身籠もり西浅草を出て出産するときに亡くなってしまい子供も死産でした。胸の傷があると男の特徴を聞いていた桜は30年後に賢剛と亮輔が辰司の胸には名誉の負傷の痕があると話していたので彩織の相手だと知ったのです。

そして本人に確かめると認めたのでバッグを振り回して殴ったが、辰司は二重の柵を自ら乗り越え飛び降りたのだと桜は言いました。

 

賢剛から話を聞いた亮輔は誘拐殺人犯だけでなかったのかと嘆くが彩織が江藤の孫だと知り翔を訪ねると「なんで父親が辰司なんだ」と驚かれます。

亮輔は「付いてこい、すべて話すから」と翔に言われ、江藤を訪ねるのだと気付きます。

智士がすべての罪を背負い自ら命を絶った事を知り辰司は人を寄せ付けず無口になりました。グラタンを食べさせた彩織の辛さを分かってあげられるのは翔しかいない、また翔の辛さを分かってあげられるのも彩織しかいないので二人は互いを慰め合い妊娠したのです。

辰司のことが好きだったから「胸に傷がある」と嘘を付いたのだろうと翔はいいました。江藤は彩織が何も話してくれなかった事、誘拐事件を起こした事で信用を失ってしまった事を悲しんでいました。

彩織の付いた嘘は好きな人の命を奪う結果となったが、智士が亡くなった場所で殴られた辰司はずっと罪を償いと思っていたので自ら飛び降りたのだろうと亮輔は思います。

 

亮輔は「俺たちの父親は馬鹿だった」と同じ苦悩を感じてくれるはずの賢剛に伝えるが彼は「刑事失格かもしれないが人の子だ、相応な理由があって行動を起こしたに決まっている」と情に逃げていました。

罪は罪としか思えない亮輔は「俺たちは理解し合えないけどお前はいい奴だ、自分の厳しさが嫌になる」と告げると「正しいのはお前だ」と賢剛は言いました。

こんな事で辰司が残してくれた親友の関係が壊れてはいけないと思う亮輔は10年経てば互いに何か変われるだろうと告げその場を去りました。

 

感想/罪と祈り

重たい内容だったがなんか回りくどく感じてしまった。過去と現在を行き来するのはいいが素人の亮輔の行動はいらなかったと個人的に思う。

親友の父親でありお世話になった辰司が殺された事で賢剛が捜査して伝えれば良かったと思う。

それに辰司が殺された場所が智士と同じ場所ならその時点ですぐに関係性を疑うのではないか、最初の3.4ページで疑ってもいいと思うほどです。

彩織が妊娠していたのはまさか道之助が!と嫌な予感がしたが翔で安堵した。

親が世間を騒がせた誘拐事件の犯人だったらどう思うか、亮輔が言っていたようにその時代や場の雰囲気など人の話だけでは理解出来るはずないのだから「罪は罪」と思うのは当然だと思います。賢剛が情に逃げたのは理解出来る読手であるこちら側の意見だと思う。

ちょっと犯人が納得できなかったな。桜は智士に懐いていたので、実は様子がおかしいのに気付いて探っており誘拐事件を知ったが智士が亡くなった事で恨みを買っていた・・・ならまだ理解出来たのですが。

それにしても道之助だけはどうもうさんくさいので言葉が信用できなかった(笑)

 

小説/BOOK
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